ビール純正法

 

ビールは大麦とホップと酵母と水だけを使って作ることを定めたビール純正法(Reinheitsgebot)は1516年のバイエルンのが有名です が、実は既に1493年にランツフートで同様の趣旨のものが布告されており、そのコピーがミュンヘンの古文書館にあります。

1493年当時バイエルン-ランツフートはバイエルンの2/3を占め、バイエルン-ミュンヘンよりずっと大きかったのですが、 遺産継承戦争に負け、1516年にはすでにバイエルン-ミュンヘンに併合されてしまっていました。ランツフートの布告を下敷きにして出された 1516年のミュンヘンの純正法の内容は簡単ですが、ランツフートの方はもっと詳しく規定していて、後半部分の大意は次ぎの通りです:「宣誓をした当該の マイスター以外にビールの店を開く者は、量の多少、経費が掛かっているとか決められた量より沢山注いでいるとかに関わらず、あるいは危険なものを混ぜた 者、麦芽、ホップおよび水以外のものを使った者、あるいはこれに従わなかった者あるいは危険な行為に及んだ者は罰せられる。」これを見ると純正法というよ りは消費者を危険から護るための保護法の色彩が強いようです。ではなぜビールが危険なのか?

タキトゥス(AD54-117)のゲルマニアにゲルマン人は大麦で造った、変わった飲み物を飲んでいる、という記述がありますが、腐りやすく、また甘いものだったようです。 600-700年ごろには既にホップを味付けと保存のために使うことが発見されています。 もちろん、ホップの他にもありとあらゆるものが試されました。たとえば木の皮、きのこ、ドイツトウヒの芽、セイヨウノコギリソウ 栗の葉、樺の灰、ピッチ、 アカマツのヤニ、アニス、パセリ、ネズ、シナモン、ニガヨモギ、果てはドラッグに属するヒヨスの花や種、などなど。ではビール純正法が出たあと、はいそうですか、と皆が守ったかというとそうでもなかったようで、植物の命名法で有名なカール・フォン・リンネ(1707-1778)のバイエルンでの寄稿に「ホップの方が大麻よりはよろしい。スエーデンでは大麻を使っているがあれは頭痛がしていけない。リンドウやWasserklee(これは日本名でいうと 何でしょうか?)、Wermut(ニガヨモギ)なども使われているがあんまり有効でない。」と書いてい ます。1800年にはこの近くのPfarrkirchenで13人がビールを飲んで死にましたが、処方を書いた人もビールを造った人も死んでしまったので、詳しい処方は判りませんが、生前に吹聴していた処方によれば ヒヨスの種とアンチモンが入っていたとのことです。従って1493年のランツフートのビール消費者保護法は大変に時代を先取りしたものだった、と言えるかもしれません。

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